コーヒーの選択肢が増えるのは良いこと・・・
スターバックスのハワード・シュルツCEOは、自ら日本を訪れて記者会見を開き、2018年に中目黒に「スターバックス リザーブ ロースタリー」をオープンすることを表明しました。
「スターバックス リザーブ ロースタリー」は、焙煎所とカフェが併設してあり、客はスタッフがコーヒー豆を焙煎するところを見ながら、そこで焙煎されたコーヒーを楽しむことができるというもの。
2014年にスターバックスの本拠地であるシアトルに1号店がオープンしています。
今後は同様の店舗が上海、ニューヨークにも作られ、東京店はその4号店になる予定。
それで、これを報じたニュースを見ていていくつか違和感を持ったことがあります。
まず、このスタイルの店を「新しいタイプ」と称しているところ。
これが「スターバックスにとって」と、かかるのであれば確かにこれまでになかった新しいタイプの店舗となるでしょう。
しかし、店内で自家焙煎を行い、それを店で提供しているコーヒーショップというのは少なくとも日本国内においては珍しいものではありません。
スターバックスが「スターバックス リザーブ ロースタリー」という新しい展開を始めたのは、その背景にサードウェーブカフェへの意識があるのかもしれません。
日本ではサードウェーブ=ブルーボトルコーヒーというイメージが固定されつつあります。
しかし本来サードウェーブというのはある意味「思想」でもあるので、アメリカではサードウェーブとしてカテゴライズされているカフェもそれぞれ別々の個性を出しています。
この点は「個性」を自分の外にある流行などに置いて、それに從うことが「個性的」だと勘違いし、どんどん没個性になっていく日本人とは正反対。
サードウェーブカフェの中には、倉庫などを改装して大きな焙煎機を置き、そこで焙煎した豆をそのまま販売したり、コーヒーにして提供している店もあります。
ドトールもサードウェーブを意識して焙煎施設や研究所などを併設した「神乃珈琲店」を学芸大学に開いています。「神乃珈琲店」は「サードウェーブのその先」をキャッチコピーにしています。
ブルーボトルコーヒーも中目黒に進出していることもあり、マスコミは「中目黒コーヒー戦争」などというような調子で取り上げようとしています。ゴシップ誌の類ではなく、経済誌でそのような論調なのだから困ります。
そもそも日本のマスコミはすぐ「潰し合い」が必然であるかのように論じようとします。確かに日本の商習慣というのは共存共栄より潰し合いが基本という感じ。
特にセブンイレブンなどはコーヒー業界やドーナッツ業界に焦土作戦とでも言えるような戦争を仕掛けています。ドーナッツでは自分でケンカを売っておいて負けたようですが・・・。
しかし、今回の「神乃珈琲店」や「スターバックス リザーブ ロースタリー」などは、消費者の角度から見れば選択肢の多様化に他なりません。
スターバックスが日本に進出して20年が経過。スターバックスは、日本にシアトル系のエスプレッソアレンジドリンクという新しいコーヒー文化をもたらしました。
それにより日本の既存の喫茶店、カフェは衰退したでしょうか?
そんなことはありません。スターバックスはセブンカフェとは違い、日本のコーヒー産業で一人勝ちしようとしているわけではなく、自らのスタイルを貫いて住み分けができているからです。
そもそも消費者は、各種あるカフェのどれか一つに絞って行かねばならない決まりなどないわけで・・・。
中にはその中から自分の好みの店を見つけて他には行かなくなるという人もいるかもしれません。
特にサードウェーブの思想に染まって「信者」のようになっている人はそんな感じ。
ただ、普通の人はどれか一つの信者になって、他を否定するというようなおかしな行動には出たりしません。
例えば筆者はカレーが好きで、その中でもインドカレーが好きですが、だからといってインドカレーの店しか行かないということはなく、タイカレーでも昔ながらの日本のカレーでもおいしくいただきます。
むしろ、いろいろな国のカレーが食べられるようになっている現状はカレー好きとしてはありがたいこと。
ましてや、インドカレーだけ一人勝ちして他は無くなれなどという偏狭なことも考えていません。コーヒーに対してもそれは同じ考え。
今回の記者会見でシュルツCEOは「我々がやってきたことは全てカップの中にある」と語りました。
大切なのは企業やお店がカップの中ではなく、外の競争相手を潰すことに必死にならないこと。カップの中に、自分たちがこれがおいしいと思うコーヒーを注いでくれることでしょう。
スターバックスは日本進出をする前、日本のコンサルタント会社に日本での市場分析を依頼したそう。
その結果言われたのは、日本ではスターバックスのスタイルは受け入れられないというもの。
しかし、それでも日本に進出した結果大成功しました。最後の「スタバなし県」鳥取県に店舗ができたことで、47都道府県全てにスタバの店があり、日本全体だと1,200もの店舗があります。
日本のコンサルタント会社ができるのは現状分析だけ。その時点で日本に既存のものが受け入れられているかどうかぐらいのことは分かるでしょう。
しかし、彼らにその時点で日本にないものが、日本人に受け入れられるかどうかなどわかるはずがありません。
日本での展開は望みなしという報告を受けてもなお、Goサインを出したシュルツ氏は「カップの中」に賭けていたのだと思います。
もちろん、進出直後でも現在でも、スターバックスのコーヒーを悪し様に言う人はいます。
しかし、それは単に自分の好みではないものは否定するという偏狭さを表しているだけであって、スターバックスのコーヒーの評価がそのようなもので決まるわけではありません。
ですから、シアトル系が正しい、サードウェーブのほうが正しいなどというのはナンセンス。おいしさに正しいも間違っているもありません。
同じものでも人によっておいしいと感じることもまずいと感じることもあるわけで、味に絶対というものはありません。それゆえにこそ、選択肢が増えるのは大切なこと。
「スターバックス リザーブ ロースタリー」ができることで、日本のコーヒー業界がさらに活性化するならば良いことではないでしょうか。