スターバックスの挫折と再生

47都道府県すべてに出店を果たしたスターバックス。その名前を知らない人はいないのではないでしょうか。

「スタバへ行くと期待どおりのおいしいコーヒーを出してくれ、店員の人たちのホスピタリティも高い。顔を覚えてくれていたり、新しいコーヒーやそれに合うデザートを勧めてくれたりする。店で過ごす時間は安らぎのひとときだ。」という人は多いのではないでしょうか。

確実にファンを増やし続けているスターバックス。日本においては、2013年度の売上が1,200億円を超え、2014年には一杯1998円というスタバ史上最も高いコーヒーを販売するなど、プレミアム感と話題性を敏感にキャッチした強気の戦略を展開しています。

順調に事業を拡大しているように見えますが、創業当時から順風満帆であったわけではありません。2000年頃、とてもにぎわっていたスターバックスは、2007年頃に一時停滞したのです。2014年は復活を果たしましたが、いったい何が起きていたのでしょうか。

停滞期の業績を見ると、2007年に比べ2008年は売上高は拡大しました。しかし、利益は半減、既存店の売上高は下がり、業績不振に陥っていたのです。利益が悪化している場合、不要な経費を削減、無駄を省き効率化を図ることがよくあるパターンです。

「利益悪化の処方箋は、経営合理化」とされ、会社経営は結果がすべてであり、数字を見てドライに割り切り、過酷な経営合理化を選択する企業が多く見られます。

実際に、この手法を取るとすぐに効果が表れます。例えば、人員を2割削減すると、人件費も2割程度抑えられます。コストが減る分利益が増える、この図式は、今すぐ不振状態を脱して利益の向上を図りたい経営者にとって、即効性がある魅力的な方法なのです。

しかし、スターバックスにとってこの解決策は適切だったのでしょうか。当時のスタバに客として行ったとしたら、適切ではなかったと直感的に感じるでしょう。事実、経営合理化を進めるうちに、来店客数は減少したのです。

その時期にスターバックスで起こっていたことが、ハワード・シュルツが書いた「スターバックス再生物語」(徳間書店)に詳しく書かれています。彼はスターバックスの創業者であり、経営を立て直すべくCEOに復帰し陣頭指揮を執ったのです。

当時、スタバの店内からコーヒーの重厚で豊かな香りが消えてしまいました。コーヒーを迅速に提供するため、店舗でコーヒー豆を挽かず、別の場所にあるセンターで挽くようにしたからでした。さらに、サイドメニューの軽食を温めたりとさまざまな香りが店内に広がるようになり、わずかなコーヒーの香りも感じにくくなってしまいました。

また、コーヒーの味も落ちていきました。店舗数の拡大を急いだため、研修の不十分なバリスタがコーヒーを入れ提供していたからです。2007年に発表されたアメリカの消費者レポートでは、スタバのコーヒーは、マクドナルドのコーヒーよりも評価が低くなっていました。

さらに、店舗数の拡大を急ぐあまり、店のデザインを簡略化、画一化してしまい、店内で感じられるワクワク感を失っていきました。極めつけは、ぬいぐるみやCDなど、本業とは関係ないエンターテインメント系の商品を店舗で取り扱うようになったのです。

客がスターバックスに求めていたものは、「おいしいコーヒー」であったり「店内に広がるコーヒーの香り」であったり、「店内の雰囲気」でした。しかし、経営合理化を図ったため、スタバらしさを失い、自らその魅力を減らしていってしまったのです。

濃密な「スタバ体験」が出来なくなっても、一気に顧客は離れませんでした。けれども顧客は徐々に離れていき、2008年ついに顕在化。全世界の顧客がスタバに飽き、足を遠ざけていったのです。

幸いなことに、ハワード・シュルツは、自分が創業した「スタバらしさ」の重要性を理解していました。そして「原点回帰すべし」と考え経営改革に取り組んだのです。家庭や職場の間にある「第3の場所」としての地位を取り戻し、革新的な文化に戻ろうとしました。

まず取り組んだのは、価値向上への投資です。アメリカにある7,100店舗を一斉に半日閉店とし、バリスタの再研修を行いました。売上が落ちるのは覚悟のうえでした。そして新生スターバックスを象徴する新しいブレンドコーヒーの開発を指示しました。さらに、店舗でコーヒー豆を挽く方法に戻したり、最高級コーヒーを入れるコーヒーマシン会社を買収したりと、数々の戦略を打ち出しました。

一方で、合理化も慎重に進めました。不採算店舗は閉鎖し、古いITインフラや配送システムは抜本的に見直しました。そして、社員一人ひとりが「スタバらしさとは何か?自分は何をすべきか?」を考える仕組みも作りました。

こうしてスターバックスは見事復活し、全世界で今も成長を続けているのです。「外食業界の勝ち組」と称されるに至った陰には、「スタバらしさ」を失うことなく経営改革を進めていった企業努力があったのです。

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