JTの飲料事業撤退の本当の理由とは

日本たばこ産業(JT)は2015年2月4日に飲料事業から撤退することを発表しました。2015年9月を目処とし、製造・販売を終了。

同社は飲料事業に1988年から参入し、『ルーツ』、『桃の天然水』など多くのヒット商品を発売しました。2014年3月期の売り上げは約500億円にのぼります。

なぜ同社が飲料事業からの撤退を決断したのか、その理由を分析しましょう。

JTの事業には『国内・海外たばこ事業』、『飲料事業』、『医薬事業』そして『加工食品事業』があります。当然ながら同社の柱は『たばこ事業』ですが、たばこ事業は税制などの様々な法規制の影響を受けるので、リスクが高い事業です。

また、最近では世間の禁煙ブームもあって若者のたばこ離れが顕著になっていますし、この傾向は今後も続くと考えられます。つまり、たばこ事業のリスクはますます高まっているのです。同社は単一事業のリスクを解消するために事業の多角化を推進し、1987年に医薬事業そして1988年に飲料事業に参入しました。

しかしなぜ飲料事業から撤退を決めたのでしょうか。同社のヒット商品である缶コーヒーの『ルーツ』は、嗜好品という観点ではたばこと関係のある事業とも考えれますし、実際にたばこと缶コーヒーをセットにして販売したこともありました。

同社の2014年3月期、飲料事業における営業損失は約21億円の赤字となっています。また、2014年9月期も赤字基調から変化なく、売り上げが低迷しています。

売上低迷の理由のひとつは、セブンイレブンなどコンビニ各社が販売する「いれたてコーヒー」のヒットにあります。いれたてコーヒーの価格は缶コーヒーと同程度ですし、最近ではそれよりさらに安いプライベートブランドの缶コーヒーも増えています。

このようなコンビニ商品と真正面から競合した結果、収益を圧迫している原因となっています。

二つ目はニアウォーター市場の競争激化です。同社は『桃の天然水』でニアウォーター市場の先駆けとなりました。消費者の清涼飲料水における”甘さ離れ”ニーズが顕在化し、”水に近い”という付加価値を生み出した製品でしたが、競合商品が次々に誕生したため先行者利益は既に失われてしまったと考えられます。

前述したとおりJTではたばこ事業のリスク回避のために経営の多角化を実施しています。しかしたばこ事業以外ではほとんど収益が上がっておらず、全社としての収益率を押し下げていることも事実。

同社ではたばこ事業を国内と海外で明確にセグメントを分けており、市場規模の縮小が続いている国内ではなく、将来性のある海外市場への取り組みを強化しています。そのため、海外の投資家に対するアピールが求められおり、海外投資家にとって重要なパフォーマンスは『収益率』です。

今回の『飲料事業』撤退は多角経営によってリスクの分散効果を下げることと、収益率の改善を行うことを天秤にかけて出た結果だと考えられます。

2期連続で赤字となっている飲料事業ですが、実は医薬事業も同様に2期連続で赤字を計上しています。医薬事業の赤字は2014年3月期で約90億円、2013年3月期では約162億円となっています。つまり、事業の撤退は過去2年間の収益性だけで判断したのではないことがわかります。

ここで同社の研究開発費に着目すると、2014年3月期に医薬事業には約300億円を計上しているのに対し、飲料事業には6億円しか投資を行っていません。医薬事業ではそのビジネスモデル上、新薬の開発には基礎研究は必須です。さらに鳥居薬品の買収など、医薬事業への投資は手厚く実施しています。同社の医薬事業は2016年には黒字化する見込みもあり、投資効果は十分にあると考えられます。

しかし、飲料事業において今後市場で競争していくためには、これまで以上の研究開発費や広告宣伝費などの投資が必要となります。そのため、自社の強みを生かしながら付加価値をさらに高めていくような事業展開が難しい中で、これ以上投資をせずに撤退という判断を下したのではないでしょうか。

今回の同社の飲料事業撤退は、リソースを収益性のある海外たばこ事業や医薬事業に集中させて、将来柱となる事業を見極めたことが理由だと考えられます。

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