「さび菌」がコーヒー産業に与える影響とは
「さび菌」による病害が中南米で発見されたのは1970年代でした。
この「さび菌」に罹患すると、作物の光合成が妨げられます。コーヒー豆に対してはその成熟に悪影響を与えます。近年、中南米全域で、以前は「さび菌」が生息できなかった標高での被害が見られるようになりました。
グアテマラコーヒー協会のニルス・レポロウスキ会長によると、かつては標高3,000フィート(約914メートル)だった上限が、現在は標高6,000フィートにまで達しているそうです。
「さび菌」による各国の被害は甚大です。
2009年から2012年にはコロンビアで流行しました。コロンビアはアラビカ種のコーヒー豆の生産高が世界第2位なのですが、「さび菌」の影響で2011年はアラビカ種の豆の価格が14年ぶりの高値に上昇しました。
2014年は中米諸国、ペルー、メキシコにも病害が広がっています。メキシコのチアパス州では、ここ2年間続いた多湿と不安定な天候により、「さび菌」が例年よりも早く胞子を出しているそうです。チアバス州はメキシコ最大のコーヒーの生産地であり、今年の収穫量は前年比で23パーセント減少すると予測されています。
さらにブラジルの主要コーヒー産地では「かんばつ」が発生しており、今年に入りコーヒー豆の価格が26か月ぶりに上昇しています。
「さび菌」が過去30年で最も酷い、世界規模の流行を見せているのは、地球温暖化の影響と考えられています。オランダの人道支援団体ヒボスは、気温の上昇が害虫や病気の蔓延(まんえん)に適した環境を作り出し、作物に被害を与えていると発表しました。
また、アメリカのテキサスA&M大学ノーマン・ボーローグ国際農業研究所が管理する開発プログラムのワールド・コーヒー・リサーチによると、気候変動への対応に失敗すればサプライチェーン全体で重大な経済的損失が発生する恐れがあるとしています。
実際、すでにもう経済面、コーヒー産業の従事者に深刻な影響を与えており、ペルーやメキシコではイールド(単収)の減少や所得が落ち込み、労働者の解雇が進んでいます。グアテマラの研究機関であるプロムカフェによると、中南米諸国において、コーヒー豆の収穫量の減少によって職を失ったコーヒー農園作業者は、2012年以降で43万7,000人に達するそうです。
さらに、アメリカのバーモント州ブラトルボロの有機トレード協会(OTA)のデータによれば、アメリカではパック入り有機コーヒーの消費量の伸びが停滞しているそうです。2012年は前年比30パーセント増でしたが、2013年は前年比7パーセント増の売上高3億4,900万ドル(約379億円)にとどまりました。2014年もコーヒー豆の供給量の減少により価格の上昇が見込まれるため、成長ペースはさらに鈍化する見通しです。
このような状況を打開できない要因の一つが「化学薬品」の問題です。そして、窮地に立たされているのは有機栽培農家です。
ペルー北部のカハマルカでコーヒー豆を有機栽培するテオドミロ・メレンドレス・オヘダ氏(48)は岐路に立たされています。彼の農地も「さび菌」によりコーヒー豆の約3分の1が被害を受けました。
農薬を使えば「さび菌」を駆除できますが、そうすると有機栽培認証を受けられなくなる可能性が出てきます。有機栽培認証が与えられると、コーヒー豆の価格に10パーセントのプレミアムが付くのです。農薬を使わなければ豆は被害を受け、農薬を使えば豆は助かるが認証を失う。究極の選択です。
アメリカで有機栽培のラベルでコーヒーを販売するには、害虫の管理や土壌の栄養分の枯渇防止を考慮した持続可能な輪作計画に基づき、合成殺虫剤やその他の禁止農薬を使わずに3年間栽培する必要があると定められています。
しかし、OTAの専門家のネイト・ルイス氏によると、有機栽培農家も銅由来の殺菌剤であれば使用できるとしています。一方、植物病理学者として化学大手デュポンやマイコゲン・プラント・サイエンスの事業に携わるスティーブ・サベージ氏は、有機栽培の規則を順守しているからといって、銅由来の殺菌剤が完全に安全だとは言えないと提言しています。
これらの殺菌剤にも、環境へ悪影響を及ぼす物質が含まれています。こうした薬剤は雨で流されるため雨期には数日おきに使用する必要があり、そうすると小川に流れ込む量が増え、その水を飲む野生動物を脅かしたり、土壌を汚染したりする可能性があるのです。
メレンドレス氏は熟慮した後、プレミアムを維持するために有機栽培を続ける道を選択しました。2014年はコーヒーの木を丈夫にして「さび菌」に対する耐性を高めるため、肥料の使用回数を例年の3回から5回に増やしました。その結果、栽培コストは数年前の100ポンド当たり270ソル(約1万200円)から、320ソルに上昇してしまいました。
しかし、例年の収穫量は平均250袋(1袋=60キログラム)のところ、2014年は180袋に落ち込む見通しで、収穫時期に雇う作業者を例年の15人から10人に減らすそうです。
このように有機栽培農家は、化学薬品の使用を避ける必要があり、損失がさらに膨らみます。メンドレス氏は「農薬は一時的に伝染病を防ぐことしかできないし、別の問題をもたらす原因になる」と語りました。