サードウェーブコーヒーの『波』が日本にも到達!?
日本で「アメリカンコーヒー」というと、浅煎りの豆を使って淹れたコーヒーのことで、すっきりと酸味があり、反面あまり苦味やコクはないコーヒーのことですが、「薄いコーヒー」という不名誉なイメージで語られることが多かったのもまた事実。
アメリカでは70年代以降に「シアトル系」と呼ばれるカフェ文化が生まれました。「シアトル系」で真っ先に挙げられるのはなんといってもスターバックスでしょう。それまでアメリカの、主に西部で主流だった浅煎り豆を多めのお湯で淹れるというスタイルと一線を画し、深入り豆に圧力を加えて抽出する濃い味のエスプレッソをベースにして、カフェラテやキャラメルマキアートなどのアレンジコーヒーを提供しています。
スターバックスを現在のカフェスタイルにした現CEOハワード・シュルツ氏は、実際イタリアまでカフェの文化を見に行き、それをアメリカに持ち込んで新たなコーヒー市場を開拓しました。そして、スターバックスは家庭でも会社でもない第三の寛ぎの場=サードプレイスとしての地位を確立します。また、持ち運びしても熱くなりにくいカップを開発し、コーヒーのテイクアウト(スターバックス用語で言えば「to go」)をして歩き飲みすることを広めたのもスターバックスです。現在、スターバックスだけでも世界60カ国に18000を超える店舗が展開中。
日本でもシアトル系はすっかり定着した様相で、最近ではそれに加えて新たに「サードウェーブコーヒー」と呼ばれるスタイルのカフェも増えてきました。シアトル系を第2波として、それに続く第3の波です。
「サードウェーブコーヒー」は、豆の産地や種類を厳選し、大規模チェーン店のように流れ作業で沢山淹れるのではなく、一杯一杯を丁寧に淹れるというこだわりのカフェ文化。
そんな「サードウェーブコーヒー」の発祥の地は、アメリカはオレゴン州の最大の都市・ポートランド。ポートランドは「“きちんとした食生活で健康に暮らす”街」全米2位、「全米で最も教育水準の高い労働力を有する都市」全米4位をとるなど、健康志向が高い人やホワイトカラーに人気の街。早朝の街にはジョガーや朝早くから開くレストランでくつろぐ地元の人たちの姿があります。
そんなポートランドには、コーヒー好きの人たちはひいきのバリスタを持っているというほどコーヒー文化が根付いています。そんな街だからこそ「サードウェーブコーヒー」の流れが発生したのでしょう。
ポートランドで「サードウェーブコーヒー」のさきがけとなったのがストンプタウン・コーヒー・ロースターズです。「ストンプ(stump)」は木の切り株のこと。かつて製材工場で発展したポートランドの歴史に由来します。
ストンプタウン・コーヒー・ロースターズはフェアトレードによる豆の調達を行っています。フェアトレードとはオルタナティブトレードとも呼ばれ、多くは発展途上国の生産者から不当に安価に商品を買いたたくようなことをせず、適正価格で取引をするというもので、スターバックスなどもフェアトレードで豆を仕入れています。
ストンプタウン・コーヒー・ロースターズはさらに生産者から直接買い付けることによって、問屋を介さず直接生産者に利益が入るシステムを徹底しています。これによって商品の品質はよくなり、生産者の生活も保障されます。
ストンプタウン・コーヒー・ロースターズの本社には、かつて生産地で使われていた手製の自転車が飾られています。それはいかに以前のコーヒー農家が貧しかったかを如実に示すものです。今はフェアトレードによる直接買い付けで農家の生活レベルも向上しました。
もちろんポートランドにもシアトル系チェーン店はあります。しかし、上記のように地元の人々は画一的な店ではなく、ひいきのお店を好みます。そうした文化に合わせてストンプタウン・コーヒー・ロースターズにはお客さんの好みの味のコーヒーを淹れたり、素敵なラテアートを作れるバリスタが配置されています。また、そのために独自のコーヒーマシンも開発しました。
「サードウェーブコーヒー」と呼ばれる条件は、コーヒー自体のおいしさ、おしゃれな店舗の演出に加え、生産者の生活を支える倫理観も必要になります。
ストンプタウン・コーヒー・ロースターズに続けと、「サードウェーブコーヒー」を標榜したカフェもどんどん生まれています。
例えば「クラフト&ホスピタリティ」を掲げるコアヴァ。2010年にバリスタが集まってできたこの店はグアテマラのコーヒー農家と独占契約しており、店舗内で焙煎した豆を使っています。「ホスポタリティ」は日本語で言えば「おもてなし」ですが、どうしてカフェで「クラフト?」実はこのカフェは竹を使った家具工房と店舗をシェアしているんですね。
ウォーターアベニューコマースセンターというまるで商業施設のような名前の店は、工業地帯の倉庫を改装して開業しました。この店も店内で豆を焙煎しています。また、コーヒー講座やライブを開いて地域コミュニティの活性化にも取り組んでいます。
このような「サードウェーブコーヒー」の流れは、さらなるカフェ文化の進化をうながし、新たな波を生みだすかもしれません。
この「サードウェーブコーヒー」の波は日本にも届いています。とはいっても日本の「サードウェーブコーヒー」は現状では希少な豆を使って高級化する傾向にあり、アメリカでの本来的な意味での「サードウェーブコーヒー」からはちょっとずれた方向に向かっています。
そんな中、渋谷のPaddlers Coffeeはストンプタウン・コーヒー・ロースターズから豆を仕入れて、現地の「サードウェーブコーヒー」文化を発信するとともにポートランドのライフスタイルも紹介しています。本来の「サードウェーブコーヒー」文化が広めれば、味やスタイルの根底にある倫理観なども感じられるようになっていくことでしょう。