動物虐待と高級コーヒー豆の歴史
1杯は10セントと相場が決まっていたアメリカンコーヒーは、日用品として定番化され、その安さから決しておいしいと言えるような嗜好品に類するものではありませんでした。
1950年代のアメリカにおけるコーヒーは、いわゆるお茶代わりの役目をしていたと言えます。
しかし現在においては、高級品に位置付けられているコーヒーも存在し、その価格も世間一般の日常飲用のコーヒーの何倍もに相当する価格が付けられています。
コピ・ルアクという、インドネシアのスマトラ島やバリ島、そしてジャワ島やスラウェシ島で生産されるコーヒー豆は、その最たるもの。
よく知られている例を挙げると「ニューヨークの住宅街ウェストビレッジにある専門のカフェでは、この豆で入れたコーヒー1杯に、なんと30ドルという値段が付いている」との事で、その近くのダンキンドーナツのコーヒーの20倍以上の価格が付けられています。
この非常に高価な値段の理由として、希少価値ということが挙げられます。そして、そのコピ・ルアクの希少価値の理由は、非常に変わった製法によるもの。
その製法とは、野生のジャコウネコが農園で栽培されているコーヒーの果実を食べ、その食べられたコーヒーの果実はそのままジャコウネコの消化管に留まります。さらに消化されずほぼそのままの状態で排泄された種子を、フンの中から回収、洗浄し、加工するという工程を経て、独特の風味を持った豆が作られるという類い稀なる方法。
希少価値が高いということもあり、770ドル/kgという高価値を生んでいるのですが、ジャコウネコという生きた動物の排泄物の中から取り出して生産されている事を考えると、喜んで飲めるという訳ではありません。
しかし現実には、その需要は年々高まっており、現在では人工的に年間500トン近くを量産し、自然に生産される量の1000倍にも相当。
その生産方法は、自然に生息するジャコウネコを捕獲し、檻の中に入れ無理矢理コーヒーの実を食べさせ、生産するという方法。
動物虐待防止・動物愛護の精神から、コーヒートレーダーのアントニー・ワイルドは、「本物」のコピ・ルアクを認証するキャンペーンを立ち上げました。アントニー・ワイルドは最初にコピ・ルアクに注目した事で知られています。他の多くの専門家たちも、この現状に懸念を抱いています。
「最初にコピ・ルアクに魅力を感じたのは、かわいくてフワフワした動物がコーヒー農園にやって来て果実を食べ、立ち去った後に面白い風味の豆を残していく、というところだった」とのエピソードがあります。それと共に「少し気持ち悪かったが、とっぴで魅力的だと思った。しかし今では、豆の生産のために虐待行為が横行している」と嘆いています。