コーヒーを飲むと「脱水」が起こるなど杞憂というもの
ネットの情報というのはだいたいにおいていい加減なもの。
例えば「カフェイン 利尿作用」でググってみます。
すると「カフェインには利尿作用があります」と書いてある情報は非常に大量に出てくるけれど、カフェインがどのような機序によって利尿作用を亢進するのかということを書いてあるものは見つかりません。
ものによっては「カフェインは交感神経を刺激して腎臓に流れる血液が増えるために尿がたくさん作られる」ことを利尿作用として説明しているもものもあります。
でも、ちょっと医学の知識があればおかしいことはわかります。交感神経は膀胱括約筋を緊張させ、膀胱の平滑筋を弛緩させます。
つまり袋の入り口は締まって、袋自体はゆるくなる。これによって排尿を抑制しています。だから、交感神経が刺激されることで利尿作用が起こるという理由付けは、医学的にはありえません。
ただし、腎臓に流れる血流量が利尿につながっているという部分だけは間違っていません。
実際にはカフェインの利尿作用は、カフェインが持つアデノシン拮抗性にあります。
腎臓が動脈から受け取った血液は、輸入細動脈から血液の濾過機能を果たす糸球体に流れ込みます。輸入細動脈には傍糸球体細胞というセンサーがあって、輸入細動脈に入ってくる血液量が減るとレニンという酵素を分泌。
レニンはアンジオテンシノーゲンというタンパク質を分解し、その分解されたタンパク質は最終的に腎臓の血管を収縮させて血圧を高め、血流量を増やします。
よく、血管が広がると血流量が増え、収縮すると血流量が減ると誤解されていますが、それは肩こりなどによる血管の圧迫で血流が滞っている状態と混同しています。
肩こりなどは、筋肉の緊張で血管が圧迫されて血流量が減っている状態になっており、“筋肉を弛緩”させることで血流量を回復させると緩和されます。
一見、通り道が狭いより、広い方が流れる量が多くなると思われるでしょう。しかし、それは流れる血液の勢いが同じだったらという条件が必要。
血管の場合は、収縮すると狭まった通り道に必要なだけの血液を流すために心臓がより強く血液を送り出すようになります。
つまり、血管が収縮したほうが血液の流れの勢いが増すわけです。これにより、血管が弛緩しているときより一定時間に流れる血液の量は収縮したほうが増えることになります。
レニンの分泌は最終的に腎臓の血流量を増やし、その結果作られる尿の量は増えます。
しかし、逆にそれが度を越すのもいけません。その反応を抑制するのがアデノシンという物質。アデノシンには様々な働きがありますが、腎臓ではA1受容体というレセプターに結合してレニンの分泌を抑えます。
カフェインは腎臓でこのA1受容体と結びつき、アデノシンの結合を阻害。すると、レニンの分泌が抑制されずに、尿量が増えます。
また、カフェインにはレニンの分泌自体を促進する働きがあるという研究もあるようです。
これが、カフェインの持つ利尿作用の機序。しかし、カフェインのこの作用はそれほど強力ではなく、せいぜい多少尿の量が増える程度の影響しか与えません。
カフェインの利尿作用を「脱水作用」のごとく解釈し、カフェインを含むコーヒーやお茶などでは水分補給にならないと騒ぐ人がいますが、カフェイン粉末を少量の水で飲んだというならばともかく、99%が水のコーヒーを飲んだところで、飲んだ水分量より多い尿が出るということはありえません。
2008年、コネチカット大学のアームストロング教授が行った研究によれば、カフェイン入りの飲料を飲んでも体内の「電解質平衡異常」つまり、水分不足による血中ミネラルのバランス異常が起こることはないという結果が出ています。
要するに、コーヒーを飲めば飲むほど体内の水分が失われていくなどということは起こらないのです。
カフェインの利尿作用については、それがむくみ解消になるなどという肯定的な主張もあるようですが、カフェインの利尿作用に体内の水分バランスに影響するほどの力がないということは、むくみ解消にも効果が期待できないということになります。
むくみは様々な原因で発生します。そのうち、内臓疾患や糖尿病などの疾病の症状として起こるむくみは、そもそもその病気自体を治療しなければならないので、コーヒーなどを飲んでも無駄。
また、病的でない、単に長時間立ち仕事をしていて、脚に降りた血液が戻っていないというむくみであれば、歩くなどして脚の筋肉のポンプ作用を働かせるとか、半身浴などで体全体の血流を改善すれば解消されます。
飲酒後のむくみは血管と細胞間質の浸透圧の崩れが原因ですから、その浸透圧を保つ役割があるアルブミンが作られるよう、タンパク質とタンパク質代謝に必要なビタミンB6を摂取するなどしたほうが、コーヒーを飲むより有効でしょう。
いずれにせよ、コーヒーにそんな強力な「脱水」作用などありません。