コーヒーの成分が乳癌の抑制に役立つかも?
スウェーデンの名門大学・ルンド大学の研究チームは、2013年に5年に渡るコーヒーが乳がん患者に与える影響調査の結果を発表しました。ルンド大学は1666年創立、日本で言えば江戸時代初期にできた古い大学で、それでもスウェーデンでは2番めに古い大学というから驚きです。
ルンド大学の研究チームは、乳がん患者600人を対象に5年にわたって再発率を調査しました。乳癌には、女性ホルモン・エストロゲンによって進行するものと、エストロゲンがなくても進行するものがあります。このうち、エストロゲンによって進行するタイプの乳癌の細胞には、ER=エストロゲン受容体が存在し、このタイプの乳癌の治療にはERをふさいでエストロゲンが受容体と結合するのを阻害するタモキシフェンなどの抗癌剤が投与されます。
調査対象の600人のうちタモキシフェンが投与されていたのは300人。その300人の中で、コーヒーを1日に2杯以上飲んでいる人は、コーヒーを飲まない人と比較して再発率が5割程度だったことがわかっています。この時点で、研究チームはコーヒーがタモキシフェンの機能を高め、ERと結合する力が強くなったためではないかと推測していました。
ルンド大学はその後も1,090人の乳がん患者を対象に追跡調査を行うとともに、乳癌細胞自体にコーヒーを加えた時にどのような変化を起こすかの実験も行いました。
その結果、タモキシフェン投与患者のうちコーヒーを1日に2杯以上飲む人の再発率は51%と、2013年発表時の結果が再確認され、また、エストロゲンによらず進行するタイプの乳癌も、コーヒーを飲む人のほうが飲まない人よりがん細胞の大きさが小さいことも分かりました。
さらに、培養した癌細胞へのコーヒー投与では、ERのあるなしにかかわらず、細胞自体の増殖が抑えられるという結果が出たようです。これは、コーヒーに含まれるカフェインと、クロロゲン酸やフェルラ酸といったコーヒー酸による効果だと考えられています。
ただ、癌細胞へ直接コーヒーを投与した結果、癌細胞の増殖が抑えられたといっても、実際の人体では癌細胞を露出してコーヒーにひたすわけにもいかず、またコーヒーの飲用によってコーヒーの成分が血液によって癌細胞まで運ばれたとしても、都合よくその成分が癌細胞に留まり続けるわけではないので、これが乳癌治療にどのように役立つかはまだわかりません。
とはいえ、医学の進歩はこのような地道な研究によって成り立っていますから、この実験自体が無駄だということは言うべきではないでしょう。
少なくとも抗癌剤タモキシフェンによる治療効果を高めることは確かなようなので、より効果的なコーヒー成分の活用法が確率されることが期待されます。